1979年に発表された海援隊の「贈る言葉」という歌の歌詞の一節にこうあります。

 「人は悲しみが多いほど 人には優しくできるのだから」

 悲しい体験をすることは、つらいし、できれば避けたいものです。でも、そんな体験が多いほど、人はほかの人に対して優しくできるようになるというのです。
 確かにそうかも知れないと、うなずかれる方も多いのではないでしょうか。

 私は、医者をしていて今までたくさんの方の人生を見てきました。
 重い病気や事故など、思いがけない不幸と思える境遇の中でも、感動的な生き方をされている方がおられました。
 前向きに目標を持って生きていたり、周囲の人に対して感謝の言葉が絶えなかったり、すばらしい夫婦愛、家族愛の中で明るく、希望を持って生きておられたりするのです。
 重い病気や事故は、苦しいこと、つらいことには違いありませんが、こんな経験を通されたからこそ人間としてさらに大きく成長したと言えると思うのです。

 人は一生、死ぬ瞬間まで成長を続けるのだと思います。
 人はすべてが順調な順境の時にも、成長するのでしょうが、逆境の中では大きく、飛躍的に成長できる可能性があるのだと思います。
 苦しい、つらいその境遇、経験を通ることによってこそ到達できる境地があるのだと思います。


<逆境、苦難の効能>
 逆境、苦難により、私たちは成長できる可能性があると書きました。
 成長とはどんなことでしょうか。もう少し具体的に考えたいと思います。

 (1)逆境にある人に共感できるようになる。
 「贈る言葉」の歌詞にありましたが、本当に悲しい体験をした人は、ほかの人が本当に悲しい時に寄り添い、同情、共感できるようになるのだと思います。

 (2)自分の弱さを痛感する。
 重い病気やけが、そのほか自分の思い通りにならない境遇に置かれると、無力感に打ちのめされるかも知れません。
 多くの人は、ふだんは自分の人生は自分でコントロールできると思っているかも知れません。でもそれは実は錯覚であって、どんな人でも明日起こることを前もって知ることはできないし、不幸なできごとを防ぐこともできないのです。
 人生は思い通りにはならないし、自分は無力だとわかると、人を超える存在に目が向くようになるかも知れませんし、ほかの人に対しても謙遜な人になるかも知れません。

 (3)周りの人の愛、神の愛を知る。
 逆境、苦難の中で苦しみ、悩む時には、周りの人が示してくれる思いやり、愛が心にしみるかも知れません。
 東日本大震災の際にはおびただしい数の被災者が起こりました。あの時すべての日本人が心を痛め、被災者を心から応援したと思います。人が助け合うと絆が強まります。

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(続く)